
Bitou TARATARA
美棟 TARATARA

福:店主 (福嶋さん) 長:常連 (長田さん)
「あ、いらっしゃいませ。」
22時の夜も更けた頃、木の扉を開けた彼女を店主の福嶋さんが優しく迎え入れる。商業カメラマンの長田さんは、週に1・2度、晩ご飯を食べにこのお店を訪れる常連客だ。
昨年8月に初めて来店したが、存在を知ったのはもっと前。近隣に引っ越してから落ち着いて食事できる場所を探していたという。職場と自宅を往復する中で、特徴的な外観にふと目を止めた。
長―「最初はギャラリーかと思ったんですよ。でもよく見たら居酒屋と書いてあって。」
店先のガラスからのぞく縦に長い店内では、画廊さながら作品が飾られている。少し敷居の高さを感じたが、何度かお店の前を通るうちに意を決して入ってみてからというもの、今では立派な常連さんである。
福―「ちょっとこの伊達巻食べてみて。」
長―「これは...(よく味わってから)デザートですね。コーヒーと合いますよ。」
港町出身であり、福嶋さんから練り物評論家の異名を授かった彼女。単なるお客さんとは一味違う、人と人とのつながりが築かれている。


お客さんは年齢も職業も多種多様。お店を通して交友関係がとても広くなったと長田さんは言う。
長―「一人でいるのもいいけど、誰かといても楽しいんです。普段過ごしていて出会うことのない人ばかりだから。部活みたいに、いつまでもタラタラしちゃう(笑)。」
日本を代表する摺師さんから、版画の技術のことを教わった。このエリアを飲み歩くおじさんからは、訓話を優しく説いてもらった。
色々な人のための場所にしたかったという福嶋さんの思いが、なんとも言えない居心地の良さを醸し出している。
ギャラリー兼居酒屋というコンセプトはもともとあったと福嶋さん。2年前の12月にオープンして以来、知り合いを始め、お店を訪れたお客さんが個展を行うこともしばしば。長田さんが撮影した写真の展示も開催された。
一方、福嶋さんにとって想定外だったことも。
福―「お客さんどうしのつながりが、お店の外にまで出て行っちゃうのよね。」
例えば、常連さんの工房を訪ねたり、フットサルチームTARATARAを作ったり。はたまた、深い相談ごとが始まることだってある。
長―「自分のことを気にかけてくれる人がいることは、誰でも嬉しい。家族や職場では話し辛いことも、このお店にいる人なら話せることがあるんです。丁度良い距離感を保ったまま、ほどよい他人でいられるから。それはやっぱりお店の空気が支えていると思う。」

福嶋さんは元美術の先生。
美術部の顧問でもあった当時から、2つの思いがあったという。
福―「美術が好きか、美術室が好きか、どっちでもいいと思ったのよね。」
展示物、料理、店主、お客さん。
この場所の多様な魅力に惹かれて、今日も誰かが扉を開ける。